エテイヤが少年時代の頃、パリで流行っていたトランプ占いの手法は、52枚のカードの内、数札の2~6までを除 いた残りの32枚を用いて占っていくというものでした。
この頃にフランスで活躍していた占い師は、全部で3人いました。その内、1人が男性で2人が女性であり、全員が 年老いた占い師だったようです。
そしてこの頃にはすでに、おおよそのカードの意味なども、決まっていました。
例えば、♠は不幸の象徴として、とても忌み嫌われていました。また、♥は喜びを表し、♦は田舎の生活を、♣はお 金(※注)を表わしていました。
※注 現在では、♦をお金、♣を田舎の生活、と対応させるのが自然のようですが、従来はそうではありませんでした。
また例えば、♥の9には、この頃からすでに「願いが叶うカード」という意味がもたらされていました。
少年のエテイヤは、彼らの占い上のカードの意味のとり方や、それぞれの細かな違いを、事細かく聞き込みリサーチ し、15歳の時には、トランプのカードの占い上の意味の一覧表を印刷し、人々を集めて発表をしたりもしました。 実はエテイヤは、この綿密なトランプ占いのリサーチを元にして、タロットカードの小アルカナに占い上の意味を対 応させたのです。
決して、エテイヤは自分の思いつくままに、勝手にタロット・カードの解釈を作り上げた訳ではありません。この1 枚1枚のトランプの意味付けの作業を、念入りにリサーチを重ね、数多くの意味の中で最もふさわしいと思われるカ ードの意味をチョイスし、つなげ合わせて行ったのです。
エテイヤの全ての占いの探究心の源は、元をたどればこの「トランプ占い」への情熱にあります。
晩年のエテイヤは、「エジプシャン・タロット」で大成功したにもかかわらず、下のようなトランプをアレンジした 占い用カードパックを出版しています。
▲ エテイヤが最晩年に出版した、33枚からなる占い用カードパック
現在では、「トランプ占い」というと、俗っぽいような印象を抱いてしまいがちですが、エテイヤにとっては、この トランプこそが、1枚1枚のタロットカードの数札に、占い上の意味をたぐりよせる事ができた、唯一のツールでし た。
エテイヤはこの後述べるように、「タロット・カードにはエジプトの叡智が込められている」と固く信じていました が、実際の所、そのタロットの数札1枚1枚に当てはめられたエジプトの叡智の意味を読み解くには、当時のトラン プの数札に当てはめられた、占い上の意味をリサーチする以外に、方法がありませんでした。(実際の所、そもそも タロット・カードは、エジプトとは無関係ですから…)
確かにトランプ(プレーイング・カード)も、元々はゲームをする為に考案されたものに過ぎません。それでも、13 世紀に中近東イスラムのあたりで作られてから、エテイヤの時代までの500年の長い歴史の中で、名も知られてい ない人々の間で占い用のツールとして使われ、いつしか1枚1枚のカードに占い上の意味が定着し、それが伝承され 続けるようになっていました。
エテイヤがタロットの小アルカナに、具体的な意味を対応させる事ができたのは、この地道なトランプ占いのカード の意味のリサーチによるものです。
下記の表が、当時のトランプ占いの意味をまとめて、集大成させたエテイヤのメモです。
当初のトランプ占いは、今日のウェイト版タロットのように、正位置・逆位置で読み分けていました。現代のトラン プは、上下の見分けがつかない物が一般的ですが、フレンチスートのトランプが作られた当初は、上下が容易に判別 できました。
上記を見て頂きますと、ところどころ全く同じ意味が重なっていたり、ひょっとすると未完成なのではないかと思わ されるような、適当な意味が書かれている部分もあります。
さて、トランプのカードの意味を、タロットのカードに対応させるにあたって、エテイヤの前に、二つの課題が立ち 塞がりました。
一つは、タロットの4つのスートが棒・カップ・剣・コインだったのに対し、フランスの最先端のトランプのスート は、♠(スペード)♥(ハート)♦(ダイヤ)♣(クラブ)だった事です。
これについては、エテイヤは、「原始世界 第8巻」に出てくる、ド・メレの記述に従い、以下のように対応させてい ます。
♠(スペード)= 剣
♥(ハート)= カップ
♦(ダイヤ)= 棒
♣(クラブ)= コイン
※注 現代一般的には、棒を♣(クラブ)に、コインを♦(ダイヤ)に対応させるのが普通ですが、当初は、上記の ように、♦=棒、♣=コインと対応させていました。
これで、タロットのキング・クイーン・ペイジ、そして10~7の数札の意味は、大まかに決める事はできました。 しかし、もう一つ大きな問題点がありました。
それは、2~6の数札とナイトに当てはめるべきキーワードが、どこにも存在していないという事です。 当時のトランプ占いは、上の表のようにエース・キング・クイーン・ジャック、そして10~7の数札のみで行って いました。
トランプ占いをする際には、常に2~6の数札のカードを除いて行うのが、常識だったのです。 この理由から、例えばトランプの「ジャック」のカードを、タロットの「ペイジ」のカードに対応させる事ができた としても、タロット・カードの2~6の数札、及びタロットの「ナイト」に相当するカードの意味が、見つけられな かったのです。
そこで、エテイヤは苦肉の策として、とりあえずタロットの各スートの2~5の数札に、トランプ占いの対応した スートの7~10の数札の逆位置の意味を、ほぼ、そっくりと当てはめています。
エテイヤには、残念ながら、これ以外には「エジプトの叡智」を復元させる方法が、残されていませんでした。(そ もそも、エジプトとタロットは無関係ですから…)
そして、残りのナイトのカードと、数札の6のカードには、一体どこから持ってきたのかは不明ですが、オリジナル な意味が当てられています。
コートカードの内で、キング・クイーン・ペイジが、おおよそ人物像の意味を当てはめているのに対して、ナイトだ けは行動や動きに関するような意味になっているのは、こういう事情によるものです。
また、それぞれのスートの数札の6のカードの意味も、興味深いものがあります。
棒の6 (正位置)内輪の事 (逆位置)待機
カップの6 (正位置)過去 (逆位置)未来
剣の6 (正位置)歩み (逆位置)宣言
コインの6 (正位置)周囲 (逆位置)野心
どれも、範囲の内側と外側を示すようなキーワードです。
エテイヤはこうして、全ての小アルカナの意味を当てはめる事に成功した訳ですが、これは一つの法則性に一致して いる訳ではなく、かなりアバウトな部分があります。
一見、エテイヤが適当に意味を決めたようにも見えますし、今までは、そのように思われ続けていました。
しかし、エテイヤは、基本的には真面目な学者肌の人間です。
ただ、自分の想像で思いつくままに、適当に残りの小アルカナの意味を決めたとは、考えられません。
では、何によって現代に伝わる小アルカナの意味を導きだしたのでしょう。タロットの研究家・ロナウド・デッカー は、この秘密はカバラにあると、はっきりと主張します。
まだ僕も研究中ですので、解明でき次第、また、このページでお知らせしたいと思います。