◀ クール・ド・ジェブラン(Antoine Court de Gébelin)

1781年パリで名の売れた考古学者である、アンソニー・クール・ド・ジェブラ
ン(Antoine Court de Gébelin)は、「原始世界(Monde Primiif) 第8巻」を 出版しました。
この中には、ド・ジェブランによるタロット・カードと古代エジプトに関するエッ
セイ、そして、ド・メレなる人物のエジプトで実際に行われていた、タロット・
カードの占い方が掲載されていました。

アンソニー・クール・ド・ジェブラン… 当時のパリで名の知れた考古学者。
スイスの地で、牧師の息子として生まれ、最初は父と同じく牧師になる道を、選ん だそうです。

とにかく、いつも変わった事ばっかりに興味を持った学者でした。フランスのパリに渡ると、フリーメーソンに入団 し、その教義にすっかり魅入られてしまいました。
ド・ジェブランが、人類の理想郷としての「エジプト」を思い描くようになったのは、この後の事です。
元々この人は、アンソニー・クールという名前だったのですが、貴族階級の雰囲気の名前にしようと、自ら名前の末 尾に「ド・ジェブラン」とくっつけました。
今日のタロットの研究家には、むしろこちらの名前の方が知れ渡っています。

ある日パリで、友人のエルヴェシウス夫人の家で行われたパーティーに出席した時の事…
ド・ジェブランは、数人の男たちが、タロット・カードのゲームに戯れているのを目撃しました。
タロットのゲームはフランスでは、もうすっかり忘れ去られていましたが、ドイツやスイスではこの頃も盛んに行わ れていました。元々タロット・カードというのは、賭博のゲームの為に、考案されたデッキに過ぎません。 そしてこの時、ド・ジェブランは生まれて初めて、このタロットカードに出くわしました。
ド・ジェブランの全身に、すさましいほどの衝撃が走りました。ド・ジェブランは、そのタロット・カードを見るな り、「このカードの絵こそが、エジプトの叡智が記された寓意画に違いない」と、宣言しました。
そして、ブツブツと感嘆のさけび声を上げながら、ゲームに夢中になっている男たちから、タロット・カードを取り 上げてしまいました。いきなりゲームを台無しにしてしまった、ド・ジェブランのこの暴挙に、きっとその場にいた 誰もが、唖然となった事でしょう(笑)
この後、ド・ジェブランの頭の中は、常にタロットというものに占拠されてしまったようです。
ド・ジェブランの発行した「原始世界 第5巻」には、「TAROT」の「TAR」は、王を表わし、「ROT」は、 道を表わす。ゆえに「TAROT」の語源は、本来「王の道」という意味なのである、というような記述が出てきます。 もっとも、これは、語源学的には何一つ根拠のない記述なのですが…

このド・ジェブランの「原始世界」は、時のフランス国王・ルイ16世が、その新しい巻が出るたびに100部を注 文したと言われた人気図書です。それほどまでにフランスでは、ド・ジェブランの考古学者としての名は高まってい ました。
しかしながら、ド・ジェブランの一切の学説には、その根拠となる理由も証拠も、かかげられていません。いわば、 全てがド・ジェブランの頭の中で描いた空想が、長々と述べられているに過ぎませんでした。
ただ、この当時のフランスでは、この著名な考古学者であるド・ジェブランが思い描いた事全てが、真実として、世 の人々に受け入れられていたのです。
ド・ジェブランは頑なに、タロットのルーツは、古代エジプトにさかのぼる事ができると信じていました。そして、 この「原始世界 第8巻」の中に、自分と同じく、タロットのエジプト起源説を信じるド・メレという人物の、実際に エジプトで行われていた、タロット・カードの占い方というレポートも、本文と一緒にまとめて掲載しました。

ド・メレ(comte de Mellet)…
この人物がどういう人物なのかは、現在でも依然として、謎のままです。わかっているのは、「将官であり、プロヴァ ンス地方の役人である」という事実だけで、肖像画もありませんから、好奇心と夢にあふれた、地方官吏の男の顔を 想像するしかありません。
とはいえ、エテイヤのエジプシャン・タロットの占い方は、全てではないにしろ、このド・メレからの影響力を非常 に色濃く受けています。ド・メレは、あのエリファス・レヴィよりも70年以上も先行して、タロット・カード22 枚に22文字のヘブライ文字を対応させた人です。
逆にレヴィは、文字の対応こそは違えども、ド・メレの思想の影響下にあったと言っても、良いでしょう。

このド・ジェブランとド・メレの2人が、「原始世界 第8巻」で主張しているのは、次の通りです。
タロットは古代エジプトの神官によって発明され、それは彼らの教義を記した本であった。やがて火災から逃れるた めに、本はカードという形で持ち出され、やがてそれがヨーロッパに伝承した。
ところが、無知なカードメーカーにより、実際の絵柄はかなり間違って伝えられてしまっている…

この「原始世界 第8巻」を読んだエテイヤにとって、この間違って伝わってしまった、偽りのタロット・カードを、 本来の古代エジプトの時代のタロット・カードに復元する事が、生涯をかけての夢になりました。
面白いもので、実際の話、今からわずか30年前の1980年ごろまで、このド・ジェブランの「タロットはエジプ トで誕生した」という主張は、真実として受け取られていました。
つい最近でも、「タロットの発祥の地の候補は諸説あるが、その中でもエジプトである可能性が一番高い」などと Webページに書かれていたほどです。このド・ジェブランの「原始世界」の影響力には、本当に驚かされます。

摩訶不思議な事が大好きで、古代叡智の探求に、我を忘れて一生を費やしたクール・ド・ジェブラン… 彼は生涯を 独身のまま通し、最晩年は全ての病気が治るという、摩訶不思議な「動物磁器桶」という桶の中で、その一生を閉じ ました。